デイン・クリミアの戦乱から3年、クリミアに敗れたデイン
王国は、宗主国であるベグニオンの統治下に置かれていた。
名目上は、敗戦したデインの再興を促すための統治。
だが実態は、ベグニオン駐屯軍による人を人とも思わぬ
圧政に、デインの民たちは苦しめられていた。
敗残兵や動ける男のほとんどは牢に送られ、残ったわずかな
者も、少しでも帝国に逆らう素振りを見せればその場で
甚振られるか、見せしめとして処刑された。
少年少女は面白半分に虐げられ、女はその場で犯されるか、
連行され上層部への貢ぎ物として献上される。
そんな光景が毎日のように繰り広げられていた。
指揮系統ももはや機能しておらず、帝国兵とは名ばかりの
賊軍が国中に跋扈。
それがデイン王国の現状だった。
そんな状況でも、希望を失わず抗い続ける者たちがいた。
彼女の名はミカヤ。
優れた魔導士であるミカヤは、各地を巡り、帝国の弾圧に
苦しむデインの民のために戦っていた。
無論、帝国に捕まればただでは済まない。
だが心優しい彼女は、毎日のように虐げられる自国の民たち
を前に、見て見ぬ振りをすることなどできなかった。
彼女の献身的な行動はいつしかデイン人の希望の象徴となり、
「銀の髪の乙女」と呼び慕われ、名声を集めていく。
デイン中の誰もが彼女を称賛し、尊敬し、
その活躍を歓迎した。
だが、それに比例するように帝国の苛立ちは募り、
反感を集めていく。
いつしか「銀の髪の乙女」は、ベグニオン駐屯軍にとって
最も忌むべき二つ名となっていた。
無論、1人では帝国を相手にする事などできなかっただろう。
だが、彼女にはサザという名の弟がいた。
かつて浮浪児だったサザは、幼い頃からミカヤに育てられ
いつしか彼女を姉として慕うようになった。
血の繋がりこそないが、サザはミカヤを家族以上に信頼し、
またミカヤも、そんなサザを誰よりも大切に思っていた。
「ありがとう、サザ。また助けてもらって」
「ああ、怪我はないか?」
互いが互いを助け、日々の糧を求め生きていく。
どれほどデインが苦境に立たされようとも、自国の民を
救うことにささやかな幸せを感じながら、2人は力強く
生き延びていた。
だが、そんな日々も唐突に終わりを迎える事になる。
「ごめんなさいサザ、私のせいでこんな事に……」
「何度も言ってるだろ、ミカヤのせいじゃない。
謝らないでくれ」
1日に1度、わずかに許された面会の時間。
ミカヤは、牢の中のサザに何度も謝り続ける。
口では平静を装っているが、サザの全身には痛々しい青あざ
が残っている。帝国兵からやられたのは明らかだった。
帝国の恨みを買ったミカヤには、多額の懸賞金がかけられた。
生活に窮するデイン国民は、自らの保身のため
彼女の情報を帝国に売ったのだ。
「サザの身体、酷い傷……今すぐ私の力で治して──」
「駄目だ。『癒しの手』はミカヤを傷つける。
……それより、そっちは大丈夫なのか?」
「ええ、私のほうは今のところ何も……
待っててサザ。私が必ず、ここから出る方法を
見つけてみせる」
面会時間を終え、自分の牢に連れ戻されるミカヤ。
その道中、ミカヤは牢長に交渉を試みる。
「……どうして、サザばかりを傷つけるの?
私が憎いなら、私を痛めつければいいのに……」
「お前を、痛めつける?そんな勿体ない事するわけないだろ」
「…………?」
下卑た笑みを浮かべる男に、ミカヤはその意図が掴めず
怪訝な顔をする。
「……まあ、あの小僧を助けたいなら方法がない訳でもない」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。だが、お前が辛い思いをする事になるぞ?」
「教えてください!サザを救う手立てがあるなら、
どんな方法でも知りたい……!」
「そうか、そうか。それは殊勝な心掛けだな。
それなら早速明日から相手になってもらうとしよう。
……間違っても逃げ出そうなどと考えるなよ?」
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